現代素粒子物理の大きな課題のひとつとして、 この宇宙ではなぜ物質の方が反物質より多いのか(物質優勢宇宙)という謎があげられる。 その解明のひとつの鍵として考えられているのが 素粒子標準模型を超えた未知の物理法則に現れる CP対称性の破れ(物質と反物質の間の非対称性)の存在であり、 そのCP対称性の破れが引き起こす現象を発見すべく様々な研究が進められている。 特に、物質を構成する陽子や中性子等の核子、元素を用いた電気双極子能率の 測定によるCP対称性の破れを検出する実験が世界中で精力的に進められており、 その実験結果を解釈するためには核子構造の精密な計算を必要とする。 核子は素粒子であるクォークに働く強い力によって構成されており、 その強い力の源である量子色力学と呼ばれる理論に基づく厳密な核子構造の研究が、 宇宙の起源の謎解明に極めて重要である。 本講演では、HOKUSAI Greatwaveによるスーパーコンピューターを用いた 格子化された時空の量子色力学のモンテカルロシミュレーションの研究を紹介し、 また我々が進めているCP対称性を破る核子形状因子研究の現状と、 今後の展望について発表する。